紙の業務をデジタル化して定着させる手順|費用・ツール比較までやさしく解説

紙の書類が多い職場って、探すだけで時間が溶けますよね。「いつものファイルどこ?」「承認ハンコ待ちで止まる…」みたいな小さなムダが積み重なって、気づくと残業の原因になりがちです。
この記事では、紙中心の運用をデータ化していくときに、何から始めればいいか、どこでつまずきやすいか、費用感やツール選びまでを、できるだけかみ砕いて解説します。結論から言うと、スキャンして終わりではなく、「探せる」「回せる」「証跡が残る」状態まで持っていくのが成功の近道です。
目次
紙のデジタル化で何が変わるか

紙の書類をデータにすると、保管スペースが減るだけでなく、検索・共有・承認が早くなります。一方で、ルールがないと「結局探せない」「誰も更新しない」状態になり、失敗しやすいのも事実です。ここでは、できることとできないことを先に整理して、現場が迷子にならない土台を作ります。
スキャンしたら終わり、ではなく「使える状態」がゴール
「とりあえず全部スキャンしよう!」は、気持ちは分かるんですが、だいたい途中で息切れします。スキャン画像がフォルダに山積みになって、誰も見ない”電子ゴミ箱”ができてしまうんですね。成功するゴールはもう少し具体的で、例えば次のような状態です。
まず、探したい書類がすぐ出てくること。日付や取引先名で検索できたり、分類が揃っていたりすると、探す時間が一気に減ります。次に、仕事の流れが止まらないこと。申請→承認→保管までがつながり、誰のボールか分かるだけで、滞留が減ります。そして、誰がいつ処理したかが残ること。後から「言った・言わない」にならず、監査や引き継ぎにも強くなります。
逆に、スキャンだけして検索もルールもないと、「見つからないから紙に戻る」が起きやすいです。最初は”全部”ではなく、よく使う書類から「使える状態」を作るのがコツです。
紙が減ると楽になること、逆に増えることもある
紙を減らすと、分かりやすくラクになるのは以下です。
- ファイリング、倉庫保管、キャビネット整理の手間
- コピー、郵送、社内便など「運ぶ作業」
- 他部署への共有や確認の待ち時間
こういうムダは、削減効果が目に見えやすいです。
ただし、紙が減ることで増えやすい負担もあります。例えば、ファイル名の付け方や保存場所を決めないと、保存する人の判断がバラバラになって混乱します。また、画像のままだと検索できないので、OCR(画像の文字を読み取る仕組み)を使うか、入力ルールを作る必要が出てきます。
つまり、紙の手間が減る代わりに、「データを整える手間」が発生するわけです。ここを放置すると定着しません。なので、最初から完璧を目指すより、現場が守れる範囲のルールで回しながら、少しずつ改善するのが現実的です。
よくある失敗パターン
失敗あるあるを先に知っておくと、回避しやすいです。代表例はこのあたりです。
- 保存ルールがなく、書類が散らばって探せない
- 担当者しか分からない運用になり、異動で崩壊する
- 入力やスキャンが面倒で、結局紙が復活する
この原因は、システムやツールというより、進め方の設計にあることが多いです。特に「偉い人が決めたけど現場が使わない」パターンは本当にもったいないです。
回避策はシンプルで、最初に次を揃えることです。
1. 何を、どこまでデータ化するか(対象とゴール)
2. 誰がやるか(入力・確認・承認・保管の担当)
3. どう探すか(命名、分類、検索項目)
この3つが揃うと、現場はかなり動きやすくなります。
失敗しない進め方

紙中心の運用を変えるとき、最初に大事なのは順番です。いきなりツールを買うより、まず対象を絞り、ルールを決め、運用として回して改善する。この順にすると、ムダな投資が減り、社内の反発も起きにくくなります。ここでは、初心者でも迷いにくい”一本道の進め方”に落とし込みます。
効果が出やすい書類から始める
いきなり全社の紙をゼロにしようとすると、現場はパンクします。おすすめは、次の条件を満たす書類から始めることです。
- 件数が多く、探す頻度が高い
- 関係者が複数いて、受け渡しが多い
- ミスや差し戻しが起きやすい
例えば、見積もり・請求・領収書まわり、社内申請(稟議、経費精算、休暇など)、点検表や作業報告などは、効果が見えやすいです。
また、税務書類の扱いは不安が出やすいですが、国税庁の案内では、紙の領収書や請求書などをスマホやスキャナで読み取り、電子データで保存できることが説明されています(一定のルールに沿う必要があります)。
さらに、取引情報を含む電子データでやり取りした場合の保存義務(いわゆる電子取引の保存)についても特設サイトで案内されています。
ここは会社の状況で要件が変わることがあるので、「対象の書類が何に当たるか」を整理してから進めるのが安心です。
保存ルールは「誰でも守れるレベル」から
ルール作りでよくある失敗は、最初から細かすぎることです。守れないルールは、ないのと同じです。まずは最低限、次の3つだけ決めてください。
1. ファイル名(例:日付_取引先_書類種別)
2. 保存場所(部署別か、業務別か、どちらかに統一)
3. 検索の軸(取引先名、日付、案件番号など、よく探す項目)
これだけでも「どこにある?」が激減します。
そしてもう一つ大事なのが、紙の原本を残すか、廃棄するかです。国税庁のパンフレットでは、紙の書類を保存する代わりに読み取った電子データを保存でき、読み取り後の紙の廃棄でファイリングや保存スペースが減るメリットが示されています。
ただし、何でも捨てていいわけではなく、書類の種類や社内ルール、監査の考え方も絡みます。ここは「法務・経理・現場」で合意を取り、無理のない線を引きましょう。
小さく回して改善し、社内に広げる
紙の運用を変えると、必ず「例外」が出ます。だからこそ、最初から完璧な設計図を作るより、1部署・1業務で小さく回して、例外を潰しながら整える方が成功率が上がります。
進め方のイメージはこんな感じです。
1. 1業務を選ぶ(例:経費精算、見積もり承認など)
2. 2〜4週間だけ試す
3. 困った点を回収してルールを調整
4. 隣の業務へ広げる
このやり方だと、現場の「これ無理!」が早く見えるので、ムダなツール導入を防げます。
伴走ナビでは、こうした進め方を”机上の空論”で終わらせず、現場ヒアリングから業務フロー整理、kintone活用を含む内製化の進め方まで、事例ベースで一緒に組み立てる支援が得意です。大きな改革より、まずは小さな成功体験を作る方が、結果的に早いです。
ツール選びで迷わないために

ツールの話になると急に難しく感じますが、要点はシンプルです。紙をデータにする作業(取り込み)と、探して使う仕組み(管理)、そして承認や処理を回す仕組み(業務フロー)は、役割が別物です。ここを混ぜると「買ったのに使われない」が起きがちなので、まず役割で分けて、必要なものだけ選ぶ考え方を紹介します。
取り込みとOCRは「精度より運用」が勝つ
紙のデータ化というと、真っ先にスキャナや複合機を想像しますよね。ここで大事なのは、機械の性能だけではなく、現場が続けられる運用になっているかです。例えば、経理が毎日大量に処理するなら高速スキャンが効きますが、現場がたまに提出する程度ならスマホ撮影で十分なこともあります。
重要なのは「誰が、どのタイミングで、どこに入れるか」が決まっていることです。
次にOCR(画像の文字を読み取ってテキスト化する仕組み)ですが、これも万能ではありません。活字は強い一方で、手書きや、枠線が多い帳票、押印が重なった文字は苦手になりがちです。だからこそ、最初から100点を狙うより、次のどれを優先するか決めるとラクになります。
- 検索できればOK:全文ではなく、取引先名や日付など”要点だけ”取れれば良い
- 入力を減らしたい:OCRで取れない部分は、チェック項目を少なくして手入力を最小にする
- 確認を早くしたい:読み取り結果の修正担当を決め、迷わない画面にする
結局、精度を追いかけるより、現場が回る設計のほうが成功しやすいです。「OCRが完璧になるまで待つ」より、「多少手直しが必要でも回る形」にした方が、紙戻りを防げます。
保管と申請は「探せる」「止まらない」をセットで
データを保管するだけなら、共有フォルダでも始められます。ただ、紙の困りごとの多くは「探せない」「承認で止まる」「最新版が分からない」です。ここを解消するなら、保管と業務フローをセットで考えるのが近道になります。
例えば、文書管理(保管)側でやるべきことは、次のような”探しやすさ”の設計です。
- 分類(部署別か業務別か、まずはどちらかに寄せる)
- 検索軸(取引先、日付、案件番号など、よく使う2〜3個に絞る)
- 権限(全部見える状態にせず、必要な人だけ見られる範囲を作る)
これが整うと、探す時間が目に見えて減ります。
さらに、申請や承認までつなぐと、「誰のところで止まっているか」が見えるようになります。特に紙の申請は、机の上で滞留していても気づけないのが弱点です。ここをデータ化して通知やステータス管理ができると、差し戻しの回数や確認の往復が減りやすいです。
伴走ナビが得意なkintone活用は、まさにここで強みが出ます。紙の帳票をそのまま置き換えるだけでなく、入力項目を絞ったフォーム、検索しやすい一覧、承認フロー、権限、通知までを一体で作り、「使われる形」まで落とし込む支援ができます。ツールは買って終わりではなく、運用に合わせて育てていくのが現実的です。
費用と効果を見える化して社内で通す

「便利そうだけど、いくらかかるの?」で止まるのは自然な反応です。ここでは、費用の考え方を整理しつつ、上司や他部署に説明しやすい”通る言い方”に変えるポイントをまとめます。数字が苦手でも大丈夫なように、ざっくり試算の作り方で説明します。
費用の内訳を分けると判断できる
費用の話がモヤっとするのは、いろんな種類のコストが混ざって語られやすいからです。整理すると、だいたい次の箱に分かれます。
- 初期費用:設定、画面作成、データ移行、ルール整備、教育
- 月額費用:ソフト利用料、クラウド保管、アカウント
- 運用費用:入力・チェックの工数、問い合わせ対応、改善作業
ここで見落とされがちなのが運用費用です。スキャンや入力が特定の人に集中すると、いつか破綻します。だから、最初から「誰が何分増えるか」「その代わりに何分減るか」を見ておくと、後から揉めにくくなります。
効果の出し方は難しい指標を使う必要はありません。まずは次の2つだけで十分です。
1. 探す時間:1回何分、1日何回、何人がやっているか
2. 差し戻しやミス:月に何回、誰がどれくらい対応しているか
例えば「1回探すのに5分、1日3回、10人」なら、1日150分です。これが半分になるだけで、毎日75分の削減です。ここに紙の保管・郵送・コピーの手間が減る分も乗ります。こういう“納得感のある数字”があると、社内が動きやすくなります。
また、社内でよく出る反対意見への先回りも大切です。
- 現場負担が増えるのでは:入力項目を減らし、最初は対象を絞る
- セキュリティが不安:権限、ログ、持ち出しルールをセットで提示する
- 法的に大丈夫なのか:一次情報(国税庁など)を参照し、判断ポイントを整理する
国税関係書類の扱いは特に不安が出やすいので、国税庁の特設サイトやQ&Aで制度別に確認できることを示すと説得材料になります。
ルールと安全面を押さえる

紙を減らす話になると、最後に必ず出るのが「紙は捨てていいの?」「情報漏えいが怖い」の2つです。ここを曖昧にしたまま進めると、途中でブレーキがかかります。難しい法律用語を並べるのではなく、現場が判断できる形に落として説明します。
「制度の話」は結論だけ先に押さえる
まず大事な結論として、税務関係の帳簿書類をデータで保存できる制度があり、電子データでやり取りした取引情報の保存についてもルールが定められています。国税庁は制度別に特設サイトやQ&Aを用意しているので、社内判断が必要なときほど一次情報を参照するのが安心です。
ただ、現場が全部の条文を読むのは現実的ではありません。そこでおすすめは、社内で次の判断だけ先に揃えることです。
1. 対象の書類は何か(請求書、領収書、契約書、申請書など)
2. 保存の目的は何か(税務、監査、社内統制、業務効率)
3. 誰が責任を持つか(経理、総務、各部門のどこが主担当か)
この3点が決まると、制度の確認やツール要件の整理が進みます。
安全面は「人を信用しない設計」が基本です。具体的には、見られる人を必要最小限にし、誰がいつ見たか・更新したかが追える状態にしておくこと。これだけで、心理的な不安がかなり減ります。さらに、政府のデジタル化に関するガイドライン類も公開されており、考え方の参考になります。
難しそうに聞こえますが、やることは「権限」「ログ」「運用ルール」の3点セットを、現場が守れるレベルで作るだけです。
事例でイメージを固める

ここまで読んで、「理屈は分かったけど、現場のイメージが湧かない」と感じた方もいるはずです。最後に、よくある業務を例に、どんな変化が起きるかを具体的に描きます。大規模にやらなくても、必要最小限から始めて成果が出るケースは多いです。
申請と台帳から始めると効果が出やすい
例えば「経費精算」や「稟議」のような申請は、紙だとどこで止まっているか分かりません。データ化してステータス(申請中、承認待ち、差し戻し、完了)が見えるだけで、催促や確認のムダが減ります。さらに、差し戻し理由が履歴として残ると、同じミスの再発も減りやすいです。
ここで大事なのは、入力項目を増やしすぎないことです。紙に書いていた項目を全部入れようとすると、現場がしんどくなって続きません。最初は本当に必要な項目だけに絞り、改善しながら増やすほうが定着します。
次に「紙台帳」(顧客台帳、点検記録、在庫管理など)は、一覧と検索が効く形にすると強いです。紙の弱点は、過去の情報にたどり着くまでが遅いこと。データなら、担当者が変わっても引き継ぎが楽で、「あの件どうなった?」にすぐ答えられます。中小企業でも、リソースが限られる中で必要最小限からDXを進める事例が紹介されています。
だからこそ、最初の一歩は大げさにしないのがコツです。
伴走ナビでは、こうした「申請」「台帳」「検索」「承認」を、kintoneを軸に内製化しやすい形で整える支援を行っています。現場に合わせて作って直せると、外注に頼り切りにならず、変化の早い業務にも追随できます。「紙を減らす」だけで終わらず、仕事がラクになる状態まで伴走できるのが強みです。
まとめ|紙中心の運用を変えるコツ
紙をデータにする取り組みは、スキャンの作業よりも「使われる運用」を作れるかが勝負です。最初に対象を絞り、誰がどこに入れ、どう探すかを決め、承認や処理までつながる形にすると、現場のムリが減って定着しやすくなります。費用は導入より運用で差が出るので、探す時間や差し戻し回数など、分かりやすい指標で効果を見える化すると社内も動きやすくなります。
もし「自社だと何から着手すべきか」「kintoneでどこまで置き換えられるか」「ルール設計や現場定着が不安」と感じたら、伴走ナビの無料相談で状況を整理するところから始められます。まず全体像を掴みたい場合は、資料請求で事例や支援内容を確認して、社内共有に使うのもおすすめです。













